2010年2月7日日曜日

東郷雄二2009『新版 文科系必修研究生活術』を読む


私はこの本の主なターゲット層にまさにドンピシャリな文科系大学院生なので、非常に興味深く読ませていただきました。
よく練られており、内容もうまくまとめられていて、参考になる部分も多くありました。

本書は文科系研究者の望ましい研究姿勢とはどのようなものなのかを至極具体的に記したもので、ターゲットは大学生3,4年生、大学院生などの将来研究者を志望している人々です。ターゲットから外れる一般の人々にとってはそれほど面白い内容ではないかもしれませんが、学生の立場では参考になる点が多々あり、後輩たちにも自信を持って勧められる1冊です。

まずは目次から確認してみましょう。

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はじめに

第1章 研究生活入門
 研究とはなんだろうか
 研究者になるための適性
 転向のすすめ
 クロスオーバーのすすめ

第2章 研究環境をつくる
 指導教員の必要性
 指導教員の選び方
 研究の仲間を作る
 研究仲間の作り方

第3章 研究テーマを選ぶ
 研究テーマの選び方
 研究テーマに出会うには
 何がよい研究テーマか
 短期的テーマと長期的テーマ

第4章 研究方法のAからZまで
 先行研究の重要性
 文科系の研究におけるテクスト相互関係
 選考研究探索の方法
 研究カードを取る
 研究カードに何を書くか
 研究カード作成の方法
 文献カードを作る

第5章 研究のための読書術
 自分で買うか、図書館で借りるか
 読書の記憶を残す
 全部読むか、拾い読みするか
 アンテナを張る
 ブラウジングのすすめ
 論文の保管と管理
 コピーした論文は読む

第6章 図書館活用法
 図書館を活用する
 図書館で勉強する
 文献を探す

第7章 論文を書く
 論文とは何か
 先行研究の批判検討
 情報をくみかえる
 自分の問題を設定する
 問題解決のための調査・実験
 アウトラインを作る
 論文の論理構造
 論文の書式
 論文執筆の実際

第8章 文科系研究者のためのパソコン術
 私の機械遍歴
 文章を書く ーワープロとエディタ
 文章の構想を練る ーアウトライン・プロセッサ
 研究カードを作る
 データベース・ソフト
 文献管理ソフト
 パソコンを使って論文を書く

第9章 学会発表をする
 学会活動の意味
 博士課程になったら学会発表が中心に
 発表を申し込む
 発表原稿を作る
 発表の準備
 プレゼンテーション・ツールを使う
 発表の構成
 発表のやり方
 論文を投稿する
 どのような雑誌に投稿するか

第10章 研究者のための留学術
 いつ留学するか
 留学の目的をはっきりさせる
 どうやって留学するか
 留学情報の集め方
 留学まで

第11章 就職先を見つける
 指導教員の紹介
 公募に応募する
 公募に応募するときの注意
 就職するにはどうすればよいか

おわりに
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お手本のような目次だと一目見て思いました。
この本のどの部分にどのような内容のものが記されているかが、一目瞭然です。
目次を読んだだけでどのような内容の本か、著者の主張はどのようなものかが分かるというのは良書の条件の一つでありましょう。

また著者は本書の「はじめに」の部分で、本書を著した動機を3つ示しています。
1つは、近年増加傾向にある大学院生や彼らを指導する教授の手助けをしたい。
2つは、学部時代に受動的な知識吸収をしていた学生が、大学院において能動的に研究を進める際に役立ちたい。
3つは、学問研究の広い部分が神秘などでなく、伝達可能な技術であることを示したい。

読者はこの目次と「はじめに」を読んで、著者の立場と主張の概要をはっきりと捉えることができます。
非常にリーダーフレンドリーな本の好例であると言えるでしょう。


記述されている内容自体に目新しいものは多くないのですが、パソコンの利用を積極的に奨励している点や、自らの知的生産術を惜しみなく開陳している点などは好印象です。普遍的なものではなく(研究生活術に普遍的なものなどないのかもしれません)、個別具体的な手法を紹介している点は梅棹忠夫の『知的生産の技術』を彷彿させるものがありました。


論文の論理構造の章では、論文を執筆する際にいかに文章を組み立てるかということが記されているのですが、そこでもいくつか興味深い記述がありました。

私も院生のはしくれなので、論文に関わるおおよそのことは理解しているのですが、それを明確に形にすることは難しいものです。
著者はわかりやすい形で、序論・本論・結論に何を書くべきなのかを説明してくれます。

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序論
 問題の設定:その論文でどのような問題を扱うか
 問題の背景:なぜその問題を扱うのか
 先行研究の状況:その問題にはどのような先行研究があるか
 問題へのアプローチ方法:どのような方法でその問題を扱うか

本論
 先行研究の批判的検討
 問題点の摘出
 問題点を解決するための調査・実験の説明
 調査・実験の結果の提示
 調査・実験の結果の吟味
 どれだけの問題を解決できたかの批判的検討

結論
 最終的に得られた結論の提示
 結論をもう一度問題全体に置き直してその意義を検討
 この研究の限界を指摘
 残された問題点と将来の展望を提示
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本書は体系的に叙述されていて、読みやすい良書だと思います。

こういう本の効果的な利用の仕方は、紹介された手法を一度自分で試してみて、採用するかしないかを考えることでしょう。すべてが自分にフィットするわけがないので、真似すべきところだけを真似するという戦略でいきたいと思います。

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